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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)143号 決定

抗告人

櫻井喜一

右代理人

柳瀬康治

主文

本件執行抗告を棄却する。

理由

一本件執行抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

二そこで、まず、担保権の実行としての不動産競売事件における売却許可決定に対し、担保権が消滅したことを理由として執行抗告をすることができるかについて検討する。

たしかに、民事執行法は、その一八八条において七四条二項を準用し、七一条一号に掲げる事由(「競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと。」)があるときには、担保権の実行としての不動産競売事件における売却許可決定に対し執行抗告をすることができるとしている。しかし、同法は、民事執行の手続上の瑕疵について、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる(一〇条一項)こととして、民事執行の手続の迅速な完結を図つているのであつて、そのような同法の趣旨によれば、担保権の消滅は右に掲げる事由(「競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと。」)に当たらないと解すべきである。このように解したとしても、債務者または不動産の所有者は、担保権の消滅を理由として、不動産競売の開始決定に対し執行異議の申立てをすることができる(一八二条。本件においても、抗告人が担保権の消滅を理由として不動産競売の開始決定に対し執行異議の申立てをしていることは記録上明らかである。)から、その権利の保護に欠けるということはできない。

そして、他に担保権が消滅したことを理由として執行抗告をすることができると解すべき根拠はない。

三そうすると、本件執行抗告は、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当であつて理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 櫻井敏雄 裁判官 増井和男 裁判官 河本誠之)

執行抗告の趣旨

原決定を取り消す。

株式会社パンエンタープライズに対する売却を不許可とする。

執行抗告の理由

一 原審は、昭和五九年一二月一八日売却許可決定を言渡したが、右売却許可決定は次項以下に述るとおり違法である。

二 本事件の競売申立の基本となつた根抵当権は、左記のものである。

(1) 抗告人は、昭和四三年九月三日競売事件の債権者豊栄信用組合(以下、債権者という)が申請外株式会社桜井工業所(競売事件の債務者〜以下、債務者という)との間において締結した信用組合取引約定書に基づき桜井工業所が債権者に対し、現在負担し及び将来負担する一切の債務につき、元本極度額二〇〇万円の根抵当権を自己所有の別紙物件目録一、二記載の土地建物に対して設定し、昭和四三年九月一八日登記した。

(2) 抗告人は昭和四五年五月二七日に債権者との間において、元本極度額を金五〇〇万円に変更し、その旨昭和四五年六月一〇日登記した。

(3) 抗告人は、昭和四五年五月二五日債権者との間において、元本極度額金五〇〇万円を第一項の根抵当権に追加担保として別紙物件目録三記載の建物に対し設定し昭和四五年六月一〇日登記した。

(4) 更に、抗告人は昭和四六年八月一四日債務者が右取引約定書に基づき現在負担し及び将来負担する一切の債務につき、元本極度額三〇〇万円の根抵当権を本件物件に対して設定し、昭和四六年九月四日登記した。

三 本件根抵当権は、債権者が昭和五八年八月二六日に本件競売開始申立をなし、同日競売開始決定がなされたことにより元本は確定した。

四 債権者の競売開始申立書記載の主張によれば、確定した元本は金一四四〇万円であり根抵当権の極度額を越えている。

五 抗告人は昭和五九年一二月二一日に、民法第三九八条ノ二二、民法の一部を改正する附則第一一条に基づき本件「根抵当権ヲ設定シタル者」として、「其極度額ニ相当スル金額」〜旧根抵当権の場合は「優先権の限度額」として、元本極度額金八〇〇万円及び下記の計算による最後の二年分の損害金金三、六五五、〇〇〇円を供託した。

(一) 前記二(1)、(2)、(3)の根抵当権に関して

5000000÷100×0.07×731=2558500

(二) 前記二(4)の根抵当権に関して

3000000×0.1825÷365×731=1096500

六 右供託により本件根抵当権は消滅すべきものであるので、抗告人は昭和五九年一二月二一日に、債権者に対し本件根抵当権の消滅の意思表示をなした。

七 右意思表示により本件根抵当権は消滅したので、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

物件目録

一、所在 東京都渋谷区幡ケ谷三丁目

地番 五五番一六

地目 宅地

地積 二一二・四六平方メートル

二、所在 東京都渋谷区幡ケ谷三丁目五五番地一六

家屋番号 五五番一六の一

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積

一階 七〇・七四平方メートル

二階 三一・一四平方メートル

附属建物の表示

1 種類 店舗、居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積

一階 二二・六八平方メートル

二階 二五・九二平方メートル

2 種類 居宅

構造 木造瓦葺平家建

床面積 一七・八二平方メートル

三、所在 東京都渋谷区幡ケ谷三丁目五五番地一六

家屋番号 五五番地一六の二

種類 共同住宅

構造 木造スレート瓦葺二階建

床面積

一階 三五・五〇平方メートル

二階 三四・八三平方メートル

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